7.癌化とアポトーシス制御シグナルの破綻(1)

監修:京都大学大学院医学研究科 乳腺外科学 教授 戸井雅和 先生,近畿大学医学部ゲノム生物学教室 教授 西尾和人先生

1.癌化とアポトーシス抵抗性

癌化においてアポトーシス抵抗性の獲得は重要である1) 2)

  • 細胞の癌化の過程において様々な癌遺伝子や癌抑制遺伝子の変異が生じるが、その多くは増殖シグナル伝達の活性化とアポトーシスの制御シグナルの破綻(アポトーシスの抑制)を引き起す。
  • 癌化やアポトーシス抵抗性の獲得に関与する代表的なものに、癌遺伝子bcl-2、癌抑制遺伝子p53 があげられ、特にp53は、50%以上の癌に変異や欠損が認められる。
  • PI3K-Akt 経路は、アポトーシスを回避し細胞を生存させる細胞生存シグナル伝達の主要経路として同定され、多くの癌で遺伝子変異・リン酸化の亢進などの異常が認められる。
  • 抗癌剤によってアポトーシスが誘導されるが、癌細胞の持つアポトーシス制御機構の異常が抗癌剤耐性に関連することも明らかになってきている。
PI3K-Akt経路のアポトーシス抑制(再生時間 15秒) <イメージ映像>
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2.アポトーシスの主要経路

アポトーシスの誘導はカスパーゼの活性化による1)

  • アポトーシスには様々な因子が関与するが、最終的には蛋白分解酵素であるカスパーゼが活性化されることにより、アポトーシスが誘導される。
  • カスパーゼは活性がほとんどない前駆体(プロカスパーゼ)として合成され、その後切断されることによって活性体となる。
  • 上流のカスパーゼ(caspase-8、9 など)が下流のカスパーゼ(caspase3、7 など)を活性化し、アポトーシスのプロセスが進行する。

    [カスパーゼの活性化に至る主な
    シグナル伝達経路]

    1. デスレセプターを介する経路
    (extrinsic:外因性経路)
    2. ミトコンドリアを中心とする経路
    (intrinsic:内因性経路)
カスパーゼ活性化の主要経路
(再生時間15 秒) <イメージ映像>
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3.デスレセプターを介するアポトーシス誘導経路

デスレセプターを介する経路1) 3)

  • デスレセプターとは、TNF(tumor necrosis factor)、Fasリガンド、TRAIL(TNF-related apoptosis-inducing ligand)といったリガンドの作用により、アポトーシス誘導シグナルを細胞内に伝達する細胞膜上に存在する受容体分子である。
    【アポトーシス誘導シグナルの流れ】
  • リガンドが受容体に作用すると、細胞内では、アダプター分子FADD(Fas-associated protein with death domain)とカスパーゼ8、10がリクルートされる。
  • その結果、これら上流のカスパーゼが活性化され、引き続きカスパーゼ3などの下流のカスパーゼが活性化される。
デスレセプターを介するアポトーシス誘導経路
<模式図>
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4.ミトコンドリアを介するアポトーシス誘導経路

ミトコンドリアを介する経路1)

  • DNA損傷や抗癌剤による刺激など、さまざまな刺激によりp53 が活性化されると、p53 はその下流でアポトーシス促進に働く標的遺伝子等の発現を誘導する。
    この遺伝子産物はミトコンドリアに作用し、ミトコンドリアからのチトクロームC 放出を引き起こす。
  • 放出されたチトクロームC はApaf-1(apoptic protease activating factor 1)と結合し、Apaf-1の多量体化を促しカスパーゼ9がリクルートされ、アポトソーム(apoptosome)と呼ばれる巨大な複合体が形成される。
  • アポトソームはチトクロームC、Apaf-1およびカスパーゼ9を含んだカスパーゼ活性化複合体で、カスパーゼ9 はこの複合体中で活性化する。
  • 活性化されたカスパーゼ9は、デスレセプターを介する経路と同様に、カスパーゼ3などの下流のカスパーゼを活性化し、アポトーシスが誘導される。
ミトコンドリアを介するアポトーシス誘導経路
<模式図>
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参考資料

  • 1)新臨床腫瘍学~がん薬物療法専門医のために(日本臨床腫瘍学会 編集/南江堂/ 2007)
  • 2)がん研究のいま~(2)がん細胞の生物学(高井義美・秋山徹 編集/東京大学出版会/ 2006)
  • 3)バイオ研究マスターシリーズ~細胞死・アポトーシス集中マスター(辻本賀英 編集/羊土社/ 2005)
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