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- 細胞内で機能している多数のシグナル伝達経路の中で、細胞の癌化と最も密接に関連しているものとしては、ERK-MAPK経路(増殖シグナル経路)とPI3K-Akt経路(生存シグナル経路)である。
- 細胞膜の増殖因子受容体にリガンド(増殖因子)が結合し2量体化すると、アダプター分子、低分子量G蛋白質Rasを経由して、Raf→MEK→ERKとリン酸化反応するMAPK経路(MAPKカスケード)によりシグナルが伝達される。活性化したERKは最終的に核へ移行し、転写因子が活性化され、細胞増殖、細胞分化の遺伝子が発現する。(ERK-MAPK 経路)
- 増殖因子による刺激は、同時にアポトーシス誘導を抑制する経路にも伝わり、細胞死を防ぐ。このアポトーシス抑制活性の経路はPI3Kのリン酸化活性から始まり、Aktのリン酸化を通して、細胞の生存やアポトーシス誘導を阻害する。(PI3K-Akt経路)
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増殖因子受容体からはじまるシグナル伝達系(再生時間20 秒) <イメージ映像> - ※画像をクリックするとアニメが再生します。
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- 細胞の増殖は、増殖因子受容体が細胞外ドメインで増殖シグナルを受け取ることから始まる。
増殖因子受容体からRas の活性化1) 2) 3)
| 1. | チロシンリン酸化型レセプターにリガンドが結合し2量体化(例えばErbB2受容体とErbB1受容体のヘテロ2量体)すると、細胞内のレセプター上にリン酸化チロシンを含んだ配列が産生される。 |
|---|---|
| 2. | その配列をチロシンキナーゼであるShcが速やかに認識してレセプターに結合し、Shc自身がリン酸化を受ける。 |
| 3. | そしてGrb2がShcのリン酸化チロシンに結合する。 |
| 4. | さらにGrb2はSOSに結合する事により、SOSをレセプター近傍に導く。 |
| 5. | SOSはレセプター近傍でRasにリン酸基を供与し、活性化を促す。Ras(rat sercoma viral oncogene)の活性化 |
- 増殖因子受容体からシグナルが伝達されて、活性化したRasはGTPと結合して活性型となり、細胞増殖のシグナル伝達因子として機能する。
- Rasの下流で3種類のキナーゼ(MAPKKK→MAPKK→MAPK)がリン酸化により順次活性化する経路をMAPKカスケードという。
※ MAPK : 蛋白質中のセリン/スレオニンをリン酸化する活性を持つ酵素 ※ MAPKK : MAPKをリン酸化する酵素 ※ MAPKKK : MAPKKをリン酸化する酵素
MAPK 経路(MAPKカスケード)1) 4) 5)
| 1. | MAPKKKの一つであるRaf-1は活性化されたRasに結合して活性化され、MAPKKであるMEKをリン酸化して活性化する。 |
|---|---|
| 2. | 活性化したMEKはMAPK(ERK)を活性化する。 |
| 3. | 核内に移送されたERKは種々の転写因子のセリン・スレオニン残基をリン酸化して細胞増殖・分化の遺伝子発現を促進する。 |
- PI3K-Akt経路は、多くの腫瘍において恒常的機能亢進が認められている。 乳癌、卵巣癌、大腸癌、前立腺癌、神経膠芽腫など
PI3K-Akt 経路1) 4)
| 1. | リガンドの結合により受容体型チロシンキナーゼが2量体化し、受容体の活性化に伴って、受容体自身、あるいはアダプター分子がリン酸化されると、そこに PI3Kが調節サブユニット/p85のSH2ドメインを介して結合し、活性化する。PI3Kは調節サブユニット/p85と触媒サブユニット/ p110で構成されるヘテロ2量体の酵素である。ErbBファミリー(ErbB1、ErbB2、ErbB3)のうちErbB3のみは直接p85と結合してシグナルを伝達する。 | ||
|---|---|---|---|
| 2. | 活性化したPI3Kは、PIP2にリン酸基を供与し、PIP3を産生する。
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| 3. | PIP3はセカンドメッセンジャーとして働き、PDK1やAktを細胞膜近傍に誘導し、PDK1によるAktのリン酸化が起こる。
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| 4. | 活性化Aktは、アポトーシス促進因子のBADの不活化、グリコーゲンや脂肪酸合成を促進するGSK3βの活性化、蛋白質合成促進に関係するmTORの活性化などに働き、また細胞周期促進への関与や、細胞が生存・成長しやすい環境に整えたりする。 |
癌抑制遺伝子/ PTEN
- PTENはPI3K-Akt系の機能を抑制する。多くの悪性腫瘍(脳腫瘍、乳癌、前立腺癌)などではPTENが点突然変異や欠失により高頻度に不活化される。
- PTENはPIP3をPIP2に脱リン酸化する酵素である。
- PTENはSrcによりリン酸化されると、細胞膜への移行が阻害される。
- PTENがリン酸化されず、細胞膜への移行が可能となると、細胞膜に移行したPTENはPIP3を脱リン酸化し、結果としてAktの活性化が阻害されることになる。 細胞はアポトーシスへ向かう。
参考資料
- 1)新臨床腫瘍学~がん薬物療法専門医のために(日本臨床腫瘍学会 編集/南江堂/ 2007)
- 2)分子生物学講義中継Part2細胞の増殖とシグナル伝達の細胞生物学を学ぼう(井出利憲 著/羊土社/ 2004)
- 3)がん用語解説集増補版(西條長宏・笹子三津留・横田淳 編集/エルゼビア・ジャパン/ 2002)
- 4)癌治療の新たな試み~新編Ⅲ(西條長宏 編集/医薬ジャーナル社/ 2005)
- 5)キーワードで理解する~シグナル伝達イラストマップ(山本雅・仙波憲太郎 編集/羊土社/ 2007)
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